忘れない記憶 [鳥たちの庭]
「いつまでも覚えてないで
さっさと忘れなさい」と多くの人は言うでしょう
でも 忌まわしい出来事 恐ろしかったことは
脳の海馬に刻印されて残り続けます
同じ経験を招かないために
5歳ぐらいのころ
感電したことがあります
コンセントを差し込もうとして
誰かが踏みつけたのか
少し歪んでいて
うまく差し込めません
ゆがみを直そうとして
絶縁体ではない部分を触ってしまいました
次の瞬間
反射的に放しましたが
その一瞬で肘まで100ボルトの電気が走りました
腕は上下に何度も何度も何度も何度も
激しく揺さぶられました
同じころ
アイロンで畳を焦がしてしまったことがあります
母のアイロンがけを傍で観ていた私
来客で
母が玄関に走ると
アイロンを握って
シャツに押し当てます
玄関から母が私を呼ぶ声
アイロンを畳の上に置いて
走っていきました
訪ねてきたのが誰だったのかの記憶はありませんが
ワイワイ話している途中で
誰かが
「焦げ臭いにおいがする」
母が走って引き返し
悲鳴
何事かと私も付いて行き
そこで目にしたのは
アイロンの形どおりに真っ黒になった畳
逆上して喚き散らす母の声を聞きながら
私は目を丸くしていました
これはいったい何事??
どうしてこんなことに??
服を置いても
絵本を置いても
畳は一度も色を変えなかった
なぜ
アイロンの形に黒いの????
まったく
幼児はちょっと目を離すと
何をするかわかりません
知識も経験も皆無
前もって教わってもいません
世界は驚きに満ちています
だからこそ
その驚きは
くっきりと刻印されるのです